記憶の底に 第14話


一度神根島に戻り、そこに待機させていた黒の騎士団の技術者たちが全機体のエナジーフィラーの交換を行うと、ゼロは待機していた他の黒の騎士団も含め、宣言した。

「ブリタニア皇帝を討ちにいく」

誰もが疑うような言葉であったが、たった今教団施設に強襲を掛けた者たちはそれが事実だという事に気づいていた。

「ブリタニア皇帝を討つって、本気かゼロ」

扇が困惑した表情でそう尋ねてきた。

「当然だ。今はもう政庁を落とし、ブリタニアを日本から追い出せば済む問題では無くなった。皇帝を討ち、全ての植民地を解放する」

ゼロのその言葉に半信半疑だった扇たちも、黄昏の間へ足を踏み入れ、その後開いた扉の先にブリタニア宮殿の姿を見た時、神という存在と、その使途の存在を認めざるを得なくなっていた。
突然現れた黒の騎士団に、ブリタニア皇宮は騒然としていた。
あっという間に宮殿は黒の騎士団に占拠され、謁見の間の玉座に座るシャルルの前には、ゼロとC.C.、カレン、スザク、ジノ、そして黒の騎士団の面々が集まっていた。
当然全員にはギアス対策としてサングラスを着用させている。

「成程な、黄昏の間を通りやってきたか。C.C.、儂を裏切ったな」
「最初に裏切ったのは誰だ?私にはもう、ラグナレクは救いでは無くなった。さようなら、シャルル」

唯一ギアスの効かないC.C.はスッと拳銃を皇帝へと向けた。
その様子に、皇帝は顔を歪め、そして、突然声高に嘲笑った。

「フハハハハハハ、愚かだなC.C.。それで儂に勝ったつもりか?そのような甘さでよく魔女と名乗れたものだ」
「ほう?随分と余裕だなシャルル。お前を守る盾も剣も、もうここには居ないぞ?」

C.C.は辺りを警戒するように視線を巡らせながら、魔女の笑みで答えた。
皇帝を守るものなどここにはいない。
それなのに、怯えるどころか、勝利を確信したような表情で皇帝は玉座に座り続けた。

「だから、甘いと言っておるのだ。・・・よくぞ帰ってきた我が息子よ。儂の命令だ、この女を討て」
「イエス、ユアマジェスティ」

即答、だった。
それはあの変声機で変えられた共犯者の声。
C.C.は驚き振り返ると、仮面の共犯者は躊躇うことなく銃の引き金を引いた。
凶弾はまっすぐにC.C.の胸を打ち抜く。

「ぜ・・・ろ・・・」

血を吐き出し、崩れ落ちるC.C.を、ゼロは静かに見つめていた。
倒れ伏したC.C.の周りには赤い血が広がっていく。

「な!?ゼロ!?なぜC.C.を」

スザクは驚きの声をあげ、いまだ銃をC.C.に向けているゼロの腕を押さえた。

「私は皇帝陛下の忠実な僕、陛下の命を果たしただけだ」

感情のこもらない声音と言葉。
今まで纏っていた指導者の空気は霧散し、そこには皇帝の操られた傀儡が居るだけだった。

「まさか、君は皇帝のギアスで」

スザクはまさかと、その言葉を口にすると、謁見の間に響き渡るほどの笑い声が聞こえてきた。
それは皇帝のもの。
皆茫然としながらも、皇帝に視線を向けた。

「当然であろう?元々儂に立てついた愚かな男、野放しにするほど儂は甘くは無い。捕えた時点で儂の傀儡にしてておるわ」

勝者の笑みを浮かべながら皇帝は威厳を込めた声音でそう口にした。その言葉に、いまだ血が流れ続けている胸を押さえながらC.C.は顔を歪め、その身を起こした。

「・・・シャルル、貴様・・・ゼロの記憶を奪い、戦場に送っただけではなく、ここまで・・・作り変えていたか」

C.C.は憎々しげに吐き捨てると、ふらつきながら立ちあがり、肩で大きく息をしながら、皇帝を睨みつけた。

「儂の命を狙う愚か者にはふさわしい処遇だと思うが?」

今ここに黒の騎士団がいて、銃口を向けているというのに皇帝は怯える様子もなくそう言い放った。
もしかしたらこの中にまだ、ゼロのような傀儡が混ざっているのかもしれない。
・・・それが、自分の可能性もあるのだ。
騎士団の面々は、恐怖から一歩後退った。

「なるほどな、ゼロの手で実の妹を殺させただけでは飽き足らず、そこまでしたか。もういい、お前には失望したよシャルル」

C.C.はその目に冷たい光を宿すと、胸を押さえていた手を下し、まるで幽鬼のようにふらりとゼロへ振り返った。
そして一歩一歩ゼロの元へとゆっくり足を進めた。

「可哀そうなゼロ。お前の人生は皇帝のために悲惨な物だったな。皇帝の策略で母を失い、妹は命こそ助かったが重い障害が残り、洗脳から開放するために実の兄ともう一人の妹を手に掛けることとなり、弟も失う所だったお前には同情しかないよ。・・・お前がこれ以上苦しまないよう、私は」

そう言うと、ゼロの目の前に立ったC.C.はふわりと笑った。
まるで聖母のような微笑みに、周りの物は息をのんだ。
その瞬間、一発の銃声。

「C・・C・・・」

ゼロの体がぐらりと傾き、スザクは一瞬何が起きたのか解らず、C.C.の手に握られた硝煙を上げる拳銃と、胸から血を噴き出させ倒れるゼロを見つめた。その体が地面に倒れる直前我に返ったスザクはゼロを抱きとめた。
どくどくと、胸から血があふれ出す。
その光景に、信じられないとスザクは首を振りながら、傷口に手を伸ばすが、暖かな血液が手に絡みつき、間違いなく命が流れ出ている事を告げていた。

「な・・・何で、こんな!!」

その位置は心臓。
少しでも出血を抑えようと手を触れたその胸からは鼓動が伝わってこなかった。
即死だった。

「皇帝の傀儡という事は、仲間である黒の騎士団や共であるお前だけでは無い。この男に残された愛する妹と弟を、この男の手で殺させる事になる」
「だけど、こんな!!他に方法があったはずだ!何で殺した!!」

既に事切れたゼロを抱きしめながら、スザクは叫んだ。

「ユーフェミアの騎士であったお前なら、解るはずだ。あの皇女もまた傀儡となり、多くの日本人を笑いながら虐殺した。この男にも同じ事をさせたかったのか?」

C.C.は再び自らの胸を苦しげに抑えると、その場に崩れ落ちた。そして這うようにゼロの元へ行き、その仮面を愛しげに撫でた。

「すまなかったゼロ。おそらく何らかの言葉をきっかけに、お前の心が書き変わるよう、皇帝は仕掛けていたのだな」

すまない、ゼロ。
感情などほとんど見せず、気丈なふるまいしかしないはずのC.C.が、震える声でゼロに語りかけながら、涙を流した。

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